小説『風のマジム』から映画へ
原田マハの小説『風のマジム』は、派遣社員として働く女性が社内ベンチャー制度に応募し、南大東島でラム酒づくりを実現した実話をもとに描かれた作品です。

サトウキビ畑と風に囲まれた島で、一杯の酒を形にしようとする過程。
その物語は小説として世に出たのち、実写映画として映像化されました。
映画は2025年9月から全国上映され、沖縄では那覇・桜坂劇場でも上映。

原作を読んだうえで映画に触れることで、物語の背景や登場人物の行動が、より立体的に感じられます。

本記事では、小説から映画へと表現を変えた『風のマジム』について紹介します。
風のマジム 鑑賞レヴュー
映画『風のマジム』は、原田マハの同名小説を原作とした実写作品です。
主人公・伊波マジムを演じるのは、伊藤沙莉さん。

「派遣社員として働く伊波マジムが、社内ベンチャー制度を通じて南大東島でラム酒づくりに挑む」実話をもとにした小説を、映像作品として再構成した映画です。
原作を読んだうえで鑑賞した筆者の感覚では、ストーリー展開はやや早く感じられる部分がありました。
一方で、人物像が原作とかなり一致しているため、物語を追いやすく、全体として鑑賞しやすい印象です。
その印象に大きく影響しているのが、主人公を演じる伊藤沙莉さんの存在です。
原作では内面描写として描かれていた迷いや逡巡が、映画では視線の揺れや間の取り方、沈黙の長さとして表現され、文字とは異なるかたちで伝わってきます。
原作で描かれていた等身大の主人公像が、映画の中でも極端に変質することなく保たれている点は、印象的でした。
映画のパンフレットには、原作者・原田マハさんと、主人公マジムのモデルである金城祐子さんの対談が掲載されています。
金城さんが「心に残った」と語るシーンが、筆者の印象と一致していたこともあり、元技術系の仕事に携わっていた立場として、通じるものを感じました。

沖縄を題材とした作品ですが、伊藤沙莉さん、高畑淳子さん、富田靖子さんなど、キャストは主に沖縄県外出身の俳優で構成されています。
それでも、沖縄の方言・うちなーぐちが不自然に浮くことはなく、作品の世界観に自然に溶け込んでいました。
また、ダチョウ倶楽部の肥後リーダーが出演している点も、個人的には印象に残っています。
原作と映画では、終盤のロケーションなどに多少の違いはありますが、全体としては原作に忠実な再現度だと感じました。
原作小説については、以前の記事で詳しくまとめています。

映画は2025年9月から全国上映され、沖縄では那覇・桜坂劇場でも上映されました。
小説から映画へと表現を変えたことで、物語は「説明」から「体感」へと重心を移し、観終えたあとには静かな余韻が残りました。
沖縄那覇市の桜坂劇場では、現在も絶賛上映中です。
桜坂劇場
ミニシアター作品を中心に上映する「桜坂劇場」。
その特徴から、沖縄をテーマにした作品も数多く上映されています。

建物に入ると、1階のエントランスホールには、やちむん(沖縄の陶器)や古本が並んでいます。
一般的な映画館とは少し異なる、雑貨店のような空気感が漂います。

館内には多くの映画フライヤーも置かれており、上映作品の幅広さが伝わってきます。

チケット売場には、手作り感のある上映案内の看板が掲げられていました。
それだけで、どこかアットホームな雰囲気を感じます。

チケット売場の並びには、フードやドリンクの販売コーナーもあります。
映画館内に持ち込めるものから、エントランスのテーブル席でイートインできるメニューまで用意されていました。
手作り感のある上映案内の看板とは対照的に、フード・ドリンクの案内は比較的現代的なデザインです。

上映案内の看板よりも近代的になっているのがおもしろい

桜坂劇場は、映画を観るだけでなく、カフェのように過ごせる空間でもあります。
上映前後に立ち寄り、飲食を楽しむ人の姿も多く、地域の憩いの場として親しまれているのが桜坂劇場です。
まとめ・感想
まとめ・感想(仕上げ)
筆者は原作を読み、その後に映画を鑑賞しましたが、率直な感想としては「読んで、観てよかった。」の一言に尽きます。
映画を観ることで、物語の舞台となる沖縄らしさを、より強く感じることができました。
「風のマジム」はサクセスストーリーとして描かれていますが、筆者自身は、それだけでなくヒューマンドラマとしての側面も強く感じています。
映画になることで、その要素がよりはっきりと伝わってきました。
伊藤沙莉さんをはじめ、主人公の祖母役を演じた高畑淳子さん、母親役の富田靖子さんなど、主要キャスト10名のうち9名が沖縄県外出身でありながら、作品全体から沖縄らしさが自然に立ち上がっていた点も印象に残っています。
「風のマジム」は、小説として読んでも、映画として観ても、そして沖縄という場所で触れることで、少しずつ違う表情を見せてくれる作品でした。
沖縄のサトウキビで造られるアグリコールラム酒は、物語の重要な要素ではありますが、本作はラム酒製造を主題とした映画ではありません。
それでも、モデルとなった実在のラム酒「CORCOR」は、この物語をきっかけに、一度味わってみてほしい一本です。
おわり

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