好みに合わせて選ぶ、国内ダイビングポイントのおすすめガイド
あなたはどんなスタイルで潜るのが好きですか?
ドロップオフを滑るように進むダイビング、ウミウシやハゼをじっくり撮るマクロ狙い、潮に乗って大物を追うドリフト──
スタイルによって、選ぶべき海はまったく変わってきます。
本記事では、全国各地でファンダイビングを続けてきた筆者が、実際に潜ったうえで「ここは何度でも行きたい」と感じた国内の海を、スタイル別・季節別に紹介。
遠征で行く離島の海から、週末に通える本州のポイントまで。
自分のダイビングスタイルに合った「次の海」が見つかるはずです。
スタイル別・おすすめダイビングポイント紹介
ワイド派におすすめの海(地形・群れ・大物)
「広くて深い景色」「大物との遭遇」──そんなワイド派に向いているのは、地形・潮流・透明度に優れた海。
筆者がもっとも印象的だったのは、宮古島の地形ポイント。
アントニオガウディや魔王の宮殿など、自然がつくった洞窟やアーチを縫うように進む感覚は、まるで異世界に迷い込んだかのようでした。

アーチが織りなす景観は、まるでサグラダファミリアのよう

本当に魔王が住んでいそうな、幻想的な雰囲気。
本州の地形ポイントといえば、伊豆半島の雲見。
牛着岩のアーチや亀裂くぐり、光の射すホールでの浮上など、1本の中でいくつもの「場面転換」が楽しめる構成です。
地形に生物探しを織り交ぜられる、バランスの取れた海といえるでしょう。

亀裂を通り抜けていくダイバー

浮上後のホールでまったり休憩
石垣島では、川平石崎を中心にマンタとの遭遇率が高い海域が広がっています。
潮の流れを読んで根の近くに待機していると、翼を広げたような優雅なシルエットがこちらに近づいてくる──その瞬間は何度味わっても感動です。

筆者の頭上をボバリングするマンタ
本州にも、忘れてはいけない海があります
まずは西伊豆・田子の外洋ポイント。
潮当たりの良さと透明度の高さが魅力。
筆者はここでキンギョハナダイ、イナダの乱舞に囲まれた1本を今も鮮明に覚えています。

乱舞するキンギョハナダイ
関西エリアでは和歌山県・串本田子の外洋ポイント。
こちらも潮当たりが良く、透明度も高いため、群れだけでなく大物との遭遇チャンスも十分。
筆者はハンマーヘッドシャークに出会ったこともあります。

1000匹のメジナの群れを撮影するダイバー
そしてもう一つ、八丈島の「ナズマド」。
スーパービーチ”の名にふさわしい海で、ビーチエントリーとは思えないスケールの地形と魚影に感動すること間違いなしですね。
マクロ派におすすめの海(じっくり観察・撮影派)
極小生物をじっくり観察したいなら、流れが少なく、視界と背景が安定しているポイントが理想です。
筆者が通い慣れているのは、伊豆半島の湾内系ポイント。
中でも大瀬崎の湾内は、ウミウシ・ハゼ・幼魚とターゲットが多く、ピカチュウウミウシやカエルアンコウなども比較的高確率で狙えます。
和歌山県・串本も、マクロ派にはたまらない海です。
黒潮の恩恵を受けたこの海では、夏から秋にかけてカラフルな季節来遊魚が次々と現れます。
小さな甲殻類や甲殻類を守る行動など、生態観察が好きな人にもおすすめです。

ちょこまか動き回るタテジマキンチャクダイの幼魚

イソギンチャクを持って防御する姿がかわいいキンチャクガニ
ほかに高知・栢島(かしわじま)が非常に濃い海で、関東からもダイバーが遠征するほどマクロ天国。
筆者の伊豆ダイバー仲間も、年に数回は遠征するほどの“マクロ天国”です。
また、沖縄西表島も大物だけではありません。
エビ・カニ系や、擬態するハゼ類など、ガイドと一緒にじっくり探すマクロダイビングが意外と面白く、筆者は複数本マクロに費やしたこともあります。
生活圏でじっくり通える海と、遠征して楽しむ海。
マクロこそ、その“使い分け”が効いてくるスタイルなのかもしれません。
ドリフトを楽しめる海(潮流・透明度・スリル)
ドリフトダイブは「潮に乗る爽快感」と「その瞬間にしか出会えない海」との勝負。
そしてドリフトと言えば和歌山・神子元島(みこもとじま)与那国島の冬季ドリフトでしょう。
両方とも狙いはハンマーヘッドシャーク
神子元島は夏から秋にかけてハンマーヘッドシャークとの遭遇率が一気に上昇します。群れの一部がこちらに向かってくる瞬間には、視界も思考も一気に持っていかれます。
筆者の前を通り過ぎるハンマーヘッドシャーク
潮の流れが強く、エントリー前には綿密なブリーフィングが行われます。
決して初心者向けではありませんが、だからこそスキルが活かされ、自分の力で海を読む楽しさがあります。
一方、沖縄の与那国島では、12〜2月がベストシーズン。
ハンマーヘッドシャークとの遭遇で知られ、条件が揃えば100匹以上の群れが現れることもあります。
筆者も実際に12月に潜りましたが、残念ながらその日は狙いが外れてしまい、ハンマーには出会えませんでした。
それでも30m以上の透明度と、海中遺跡の地形の迫力には圧倒され、再訪を誓った1本です。
いずれも「どこに現れるかわからない」からこそ、狙いが成功したときの満足感は計り知れません。
しっかりスキルを整えて臨めば、ドリフトこそダイビングの醍醐味だと実感できるはずです。
季節で選ぶ国内ダイビングエリア
ダイビングの魅力は、海だけでなく季節によっても大きく表情が変わること。
「いつ行くか」を意識することで、海況や生物、透明度の“当たり率”はぐっと上がります。
夏におすすめの海(ベストシーズンで潜る)
夏は、ダイビングのトップシーズン。
沖縄をはじめとした南の海は穏やかになり、黒潮の影響で透明度も安定。
本州でも外洋に出やすく、潮が動きやすいためワイド・ドリフト派には最高の時期です。
筆者が夏に必ず遠征先として検討するのは、宮古島・串本。
地形や群れ、大物との遭遇チャンスが広がり、「これぞ夏の海」という濃い1本が生まれます。
また、伊豆や房総のビーチポイントも水温が上がり、潜水時間が伸びて快適。
週末1泊で手軽に楽しめる“生活圏内の夏の海”として、繰り返し訪れるには最適です。
冬におすすめの海(透明度が際立つ)
水温が下がるぶん、冬の海は抜群の透明度を見せてくれます。
寒さ対策は必要ですが、そのぶん景色はクリアで静か。
マクロ派やフォト派にはベストシーズンともいえます。
おすすめは大瀬崎・串本・栢島といった、冬でもアクセスしやすい本州の海。
特に伊豆の湾内ポイントは流れが穏やかで、極小のウミウシや幼魚の観察がしやすくなる時期です。
また筆者は冠雪した富士山を見ながらエントリーする冬のダイビングが好きで、西伊豆・大瀬崎に通っていました。

ダイビングポイントから望む富士山
そして冬の「勝負ポイント」として外せないのが、与那国島のハンマーシーズン(12〜2月)。
筆者も過去に訪れましたが、その日は残念ながら空振り。ただ、圧倒的な地形と青さは強烈な印象を残しました。
春・秋におすすめの海(安定性と生物層)
春と秋は、シーズンの谷間と思われがちですが、実はかなり“おいしい”季節。
海況が比較的安定しており、透明度・水温・生物相がバランス良く揃っているため、どのスタイルにも対応しやすい時期です。
春はマクロ撮影や秋は季節回遊魚観測といった伊豆半島はじめとした本州でのダイビングが楽しい時期でもあります。
この時期は航空券も比較的安く、海の混雑も避けやすいため、遠征・通い両方にちょうど良い“狙い目”シーズンです。
ただし春は水温がまだ低く、春にごりもあるのが難点でもあります。
このように、「どこに潜るか」だけでなく、「いつ潜るか」もダイビングの楽しさを左右する重要な要素。
筆者も、その季節にしか見られない風景を求めて、年間を通じてさまざまな海に出かけています。
筆者が「何度でも潜りたい」と感じた海
「お勧めの海は?」「一番好きな海は?」
筆者がゲストハウスをしていた頃も、ダイビングの現場でよく聞かれた質問です。
あらためて整理してみると──
お勧めの海・一番好きな海・もう一度行ってみたい海、それぞれ異なっていることに気づきます。
完全に主観ですが、あらためて今の気持ちで紹介してみたいと思います。
お勧めの海・宮古島
筆者が「人に勧めるならどこ?」と聞かれて迷わず答えるのが宮古島。
「宮古ブルー」と呼ばれる澄んだ海、アントニオガウディや魔王の宮殿といった地形ポイント。
潮が合えば光が差し込み、洞窟の中で空気の泡がキラキラと浮かぶ光景は、何度潜っても飽きません。

また、川のない島という地形的特性から、濁りが出にくくリカバリーが早いのも大きな魅力。
雨の翌日でも、驚くほどクリアな海が戻ってくることがあります。
さらにJTAの直行便を活用すれば、2泊3日でもフルで滞在できる点もおすすめ理由のひとつ。
東京在住時代は羽田から宮古島まで気軽に通っていた時期もありました。
10年で何十日と潜った宮古島。
「お勧めするなら、まずこの海。」それだけの理由が詰まっています。
一番好きな海・西伊豆と串本
筆者がいちばん好きな海──それは「西伊豆」、そして最近では「串本」も同じくらい特別な存在になっています。
以前、東京に住んでいた頃は、日帰りや1泊で通いやすい西伊豆・大瀬崎が何よりのホームグラウンドでした。
季節によって現れる生き物、春にごりや季節来遊魚など、海の中に四季があることを教えてくれたのが西伊豆です。
冠雪した富士山を見ながらエントリーした冬の1本は、今でもはっきりと思い出せます。
自然の景色がそのまま思い出になる──それが西伊豆の魅力でした。
そして現在は住む場所が変わり、リゾートバイトでも行った和歌山県。
その中でも串本の海です。
本州最南端に位置するこのエリアは、黒潮の恵みをダイレクトに受けた豊かな海。
外洋に出れば、キンギョハナダイやメジナの大群、イソマグロやハンマーヘッドといった大物の登場もあります。
一方、湾内では小物や季節回遊魚、かわいらしい甲殻類など、マクロ派も楽しめる懐の深さが魅力。
1本1本に驚きと発見があって、「また潜りたい」と思わせてくれる海です。


西伊豆と串本。
海の表情は違っても、「通うたびに好きになる」という共通点があります。
今の筆者にとっては、どちらも「一番好きな海」として並べたい存在です。
もう一度行ってみたい海・小笠原
「もう一度行ってみたい」と心から思う海が、小笠原諸島(父島)。
筆者が訪れたのは2005年。
飛行機では行けない“24時間の船旅”を経てたどり着いたその海は、
色も、空気も、生き物も「すべてが“本土とは別世界」でした。
ダイビングだけでなく、出航時のお見送り文化や、人とのつながりの濃さも含めて、心を揺さぶられる場所。
父島だけでなく、次はぜひ母島にも行ってみたいと思っています。
いつかまた、あの船に揺られて──
そう思える海があるというだけで、潜り続ける意味があります。
このように、宮古島・西伊豆・小笠原。
それぞれ違った魅力があるからこそ、「どれが一番」ではなく「どれも大切な海」として、筆者の中に残り続けています。
穴場の海
北海道と言えば流氷ダイビング。
しかし流氷ダイビングだけでなく、積丹や支笏湖などでダイビングを楽しむことができます。
豪雪の中を移動して潜った積丹の海は、今でもはっきり覚えています。
そして沖縄で言えば伊江島。
サンゴはモリモリで、洞窟やダイナミックな地形が楽しめる沖縄本島からすぐの穴場スポット。
筆者も沖縄本島在住時代に一度日帰り行きましたが、そのクオリティの高さに驚きました。


まとめ・感想
ダイビングには、いろんな楽しみ方があります。
ワイド派、マクロ派、ドリフト派──スタイルによって求める海は変わりますし、その日の潮、季節、ガイドの目によっても、同じポイントがまるで違って見えることもあります。
筆者自身、これまでに全国各地で潜ってきましたが、何度も通いたくなる海、行くたびに新しい発見がある海といろんなことを感じます。
地形を求めて宮古島へ、富士山を見ながら大瀬崎でエントリーし、今は和歌山・串本の海に惹かれて、遠くてもまた行きたくなる──そんなふうに、自分の中に「お気に入りの海」が増えていくことも、ダイビングの醍醐味のひとつです。
このページで紹介した海は、筆者が実際に潜って心を動かされた場所ばかり。
どれも条件が合えば、今すぐにでも潜りに行きたいと思えるおすすめポイントです。
気になる海があったら、ぜひ次の遠征や週末ダイビングの候補に加えてみてください。
ダイビングは、潜るほどに楽しくなる。
そんな実感が、きっとどこかの海で待っているはずです。
おわり
筆者が今まで潜った海
北海道:積丹、支笏湖
房総半島:西川名、勝浦
東京:伊豆大島、八丈島、小笠原父島
山梨:本栖湖
三浦半島:城ヶ島
伊豆半島:大瀬埼、井田、土肥、安良里、田子、雲見、菖蒲沢、稲取、北川、赤沢、八幡野
伊豆海洋公園、富戸、川奈、伊東、宇佐美、熱海、神子元
新潟:佐渡島
和歌山:南紀白浜、勝浦
広島:瀬戸内海
宮崎:南郷
鹿児島:坊津、奄美大島、屋久島
沖縄:本島、座間味島、渡嘉敷島、宮古島、石垣島、西表島、波照間島、与那国島
台湾:懇丁
タイ:タオ島